オリジナルのポピュラーサイエンス記事：科学コミュニケーションの観点から英国の「集団免疫」を見る

編集者: Kang Yan 査読者: Yang Pengbin

（傅昌毅）英国は2020年3月、新型コロナウイルス感染症の流行に対抗するため「集団免疫」政策を開始した。この方針はすぐに科学界と科学コミュニケーション界から一致した批判を集めた。本稿では、科学コミュニケーション理論の3つの応用モデルの観点から「集団免疫」政策の実現不可能性を分析し、それに応じた提案を提示する。

科学的コミュニケーションの観点から英国の「集団免疫」を見る

科学コミュニケーションの観点から見た英国の「百の免疫」

[要約]: 2020年3月、英国はCOVID-19パンデミックに対抗するために「集団免疫」政策を開始しました。この方針はすぐに科学界と科学コミュニケーション界から一致した批判を集めた。本稿では、科学コミュニケーション理論の3つの応用モデルの観点から「集団免疫」政策の実現不可能性を分析し、それに応じた提案を提示する。

【キーワード】：集団免疫;科学コミュニケーション;科学コミュニケーションモデル

【要旨】3月、英国は新型コロナウイルスの流行に対抗するため「集団免疫」政策を開始した。この方針はすぐに科学界と科学コミュニケーション界から一致した批判を集めた。本稿では、科学コミュニケーション理論の 3 つの応用モデルの観点から「集団免疫」政策の実現不可能性を分析し、これに対する提案を提示します。

【キーワード】集団免疫科学コミュニケーション;科学コミュニケーションモデル

英国のボリス・ジョンソン首相は3月12日、記者会見で、英国は流行の第2段階「遅延」（DELAY）に入り、「集団免疫」を活用して流行の拡大に対抗していくと発表した。その後、英国の主席科学顧問であるパトリック・ヴァランス卿も政府の感染症対策を擁護し、英国の「集団免疫」アプローチは、感染症の進行を遅らせ、国民の免疫力を高めることを目的としていると指摘した。

この政策の導入後、国内の自主メディアも明確に二つの派閥に分かれた。科学者ラオ・イー氏に代表される一派は、このいわゆる「集団免疫」の方法は嘘だと考えている。ワクチンのない「集団免疫」は、ダーウィンが「適者生存」と呼んだ結果にしかならず、より大きな災害をもたらすだけだ。もう一つの派閥は、三聯週刊誌の「集団免疫の過去と現在」という記事で代表されている。彼らは、これが現在の英国の国情に最も適した方法であり、最高レベルの人道主義であると指摘し、英国政府と科学顧問の政策を支持している。

では、英国の防疫政策をどう理解すべきでしょうか?この問題を分析するには、科学コミュニケーションの核となる概念に戻る必要があると思います。実際、科学コミュニケーションに関する研究を最も早く、最も徹底的に行った国は英国であるはずです。 1930 年代初頭、イギリスの科学社会学者 J.D. バーナードは著書『科学の社会的機能』の中で科学的コミュニケーションの概念を提唱しました。彼は、科学コミュニケーション研究における課題には「科学者間のコミュニケーションの問題だけでなく、一般の人々とのコミュニケーションの問題も含まれる」と信じていました[1]。 1985年、ロンドン王立協会も「科学​​に対する一般の理解」を発行し、科学コミュニケーションの重要性と科学コミュニケーションの実施方法を強調しました。

現代の科学コミュニケーションの概念の最も重要な点は、科学にコミュニケーションを導入することであり[2]、これもまたポピュラーサイエンスの伝統的な見方とは異なります。大衆科学の伝統的な見解では、科学の大衆化は一方通行であり、つまり、科学界は科学的知識を習得した人々から科学的知識を持たない人々へと一方通行で科学的知識を大衆に広めると考えられています。同時に、科学は良いものでなければならないというのが暗黙の前提です。これは私たちが長い間見てきたことでもあり、科学者と科学の一般向けライターだけが科学的知識を紹介してきました。しかし今日、科学を普及させる方法は、状況の新たな変化に直面して必然的に変化しなければなりません。科学リテラシーの向上と新たなセルフメディアの出現により、一般の人々が科学コミュニケーションに参加できるようになりました。したがって、科学にコミュニケーションを導入し、政府、科学界、メディア、一般市民、非政府組織など、複数の関係者の参加を動員して、一般市民が科学を理解し、科学コミュニケーションに参加できるようにすることが緊急に必要です。これにより、科学コミュニケーションの 3 つの応用モデル、すなわち、不足モデル、民主主義モデル、再帰性モデルも誕生しました。

イギリスの科学者ジョン・デュラントは、科学コミュニケーションの「ギャップモデル」を初めて提唱しました。 「ギャップモデル」の主な考え方は、「一般の人々は科学的知識が不足しているため、科学的知識に対する理解を深める必要がある」というものである[3]。伝統的な大衆科学の見方と比較すると、「ミッシングモデル」も科学は良いものであり、大衆に大きな影響を与えると信じていますが、科学的知識を大衆に広めることを考慮するだけでなく、このような科学コミュニケーションを通じて、大衆が科学を理解し、科学を支持する決定を下すことを期待しています。英国の現在の「集団免疫」戦略は、このモデルの適用に基づいてなされる政治的決定であるべきだ。まず、なぜ現在「集団免疫」を行っているのかをできるだけ多くの人に理解してもらい、政府の資源と能力の限界をみんなに知ってもらうとともに、この政策に対するメディアや国民の支持を得られるよう全力を尽くします。これまでのニュースでは、この政策を実施した後、英国社会は比較的安定しているようです。国民の意見は様々だが、それほど大きな問題は起きていない。

しかし、私たちがすべきことはそれだけではないでしょうか?英国の学者ブライアン・ウィン氏も、「失われたモデル」、すなわち「内省モデル」について異なる意見を表明した。彼は、科学界も政府に不利な一連の問題に関して国民から事実の一部を隠蔽するだろう（陰謀説）、あるいはさまざまな科学団体が科学理論の限界を認識しないだろう（傲慢説）と信じていた。したがって、科学を理解するために、一般の人々と科学界が相互作用とコミュニケーションを強化できるように、内省を科学に導入する必要がある[4]。現状から、英国政府の内省は明らかに不十分であり、「集団免疫」理論に関する研究も包括的ではないことが分かる。数学と科学の分野の学者198人からの公開書簡も、いわゆる「集団免疫」に疑問を呈し、「現時点で『集団免疫』を求めることは現実的な選択肢ではないようだ。それは英国国民保健サービス（NHS）にさらなる圧力をかけ、より多くの人々に不必要なリスクを負わせることになるだろう」と述べた。 164人の英国の行動科学者が署名した別の公開書簡では、「行動疲労」という概念に対する懸念が表明された。この書簡は、「行動疲労」がCOVID-19パンデミックに対する英国の現在の政策対応の要であると指摘しているが、その根拠は疑わしい。実際のところ、「集団免疫」理論が今回のパンデミックの予防に有効かどうかは理論的に議論されているだけで、科学的な実験によって検証されたり、歴史によって検証されたりしたことはない。実験や歴史によって検証されてきたいわゆる「集団免疫」の方法は、実際にはワクチンを使用して集団免疫を生み出すことを指し、ワクチンなしの集団免疫は実践されたことがありません。実際に、これまで実践されたことのない科学的手法を伝染病の予防と制御に直接適用することには、多くの科学的、倫理的問題があります。さらに、この方法により少なくとも 10 万人が死亡する可能性があります (10 万人というデータは、英国人の 60% が感染している可能性があるという仮定に基づいています)。有名な医学雑誌「ランセット」の編集長リチャード・ホートン氏でさえ、これに疑問を呈しています。彼は英国の感染症予防政策が国民を相手に「ルーレット」をしていると批判した。

国内の反応を振り返ると、一部のメディアが英国政府の説明を過度に信頼しすぎており、この説明は実際には科学界の合意を得ていないように思います。それはただ一人の意見に過ぎず、何千人もの命を奪う結果となるかもしれない。これは人道主義ではなく、むしろ生命に対する無責任だと思います。最後の民主主義モデルの概念に戻ると、民主主義モデルとは、一般大衆と科学界が対等な立場にあることを意味します。国民は科学的な意思決定の議論に積極的に参加すべきである。国民は科学の利点と欠点を知る権利がある。国民は政府や科学者の研究を監督し制限する権利も有する[5]。このモデルから出発すれば、何十万人もの人々が英国議会のウェブサイトに現れてこの政策に抗議した理由も理解し難くない。ついに、WHOの報道官マーガレット・ハリス氏でさえ、新型コロナウイルスと戦うために「集団免疫」を開発するという考えに疑問を呈した。もちろん、十分な質問が問題の解決策となります。英国政府は疑問に直面しても勇気を持って政策を見直し、適時に調整するだろうと私は信じている。英国のマシュー・ハンコック保健相も「集団免疫は我々の目標でも政策でもなく、単なる科学的概念だ。我々の目標は人命を守り、このウイルスを倒すことだ」と述べたとの報道もある。彼の発言によれば、一定期間が経過すれば、英国の防疫政策は人命保護と積極的な対応に戻るべきだと私は考えている。

なお、本稿をエッセイコンテスト（8月6日）に提出する前に、改めて英国におけるCOVID-19パンデミックに関するデータを検索してみました。英国における新型コロナウイルス感染症の累計確認症例数は30万人を超え、新型コロナウイルス感染症による死者数は4万6000人を超え、1日当たりの新規確認症例数は1000人近くとなっている。もし英国が3月にいわゆる「集団免疫」政策を検討するのではなく、真剣に対応していたら、データはもっと低かっただろう。残念ながら、英国はこれを真剣に受け止めず、科学と思考を放棄し、感染者数で世界12位という悲惨な状況を招いてしまった。

参考文献:

[1] JDバーナード。翻訳：陳 迪芳。科学の社会的機能[M]南寧：広西大学出版局、2003：341。

[2] 張静、尹昭鵬。科学コミュニケーション理論の歴史的レビュー：「コミュニケーション」の概念を「科学」に導入するプロセス[J]。自然の弁証法研究、2006(05):27-30。

[3] 李正偉、劉兵。ジョン・デュラントの科学に対する一般の理解に関する理論的研究：失われたモデル[J]。科学が社会に与える影響。 2003(3).

[4] 劉兵、李正偉。ブライアン・ウィンの科学に対する公衆の理解の理論に関する研究：内省的モデル[J]。科学の科学研究、2003(6)。

[5] 翟傑全.テクノロジーを時空を超えて：科学技術コミュニケーションと科学技術コミュニケーション研究[M]。北京：北京科技大学出版局、2002年。