『蓮如とその母』レビュー：母子の絆と歴史の深遠さを描く傑作アニメ

蓮如とその母 - レンニョトソノハハ

■公開メディア

劇場

■原作メディア

小説

■公開日

1981年

■分数

93分

■原作

・原作／平井清隆「蓮如とその母」より

■監督

・監督／川本喜八郎

■制作

・製作／「蓮如とその母」映画製作推進委員会

■著作

■ストーリー

室町時代の乱世のさなか、京都大谷本願寺第八代法主である蓮如上人が登場する。蓮如は妻に先立たれて七人の子どもをかかえていた。おむつを洗う蓮如の姿を亡き妻の妹、祐子は慕いやがて夫婦になる。そんな蓮如に心酔する人物が毛坊主の法住である。琵琶湖を航行する船の荷をかすめ取ることを生業とした彼の心の支えは、蓮如が説く念仏であった。ある日、法住が三井寺の近くの林村を通りかかると、ある家から自分が信仰する無碍光宗の正信偈が聞こえてくるのを耳にする。訳ありげな老女の姿を目にした法住は、蓮如の生き別れた母と関係があるのではと考える。蓮如の本願寺は敵対する山法師によって焼き落とされ、蓮如は三井寺にかくまわれる。そこで六歳の時に生き別れた母親と再会を果たす。母は下人という卑しい身分を嘆いて、蓮如が六歳の時に本願寺から姿を消したのだった。蓮如は「下人でありながら念仏のおかげで悔いのない人生を送れた」と言う母の最期の言葉を胸に、本願寺再建のために精力的に働いた。

■解説

原作は平井清隆による小説「蓮如とその母」（1977年）の物語である。滋賀県の同和問題にかかわる4つの団体が川本に制作を依頼。脚本は「裸の島」（1960年）などで知られる映画監督、新藤兼人による。蓮如は乱世にあって貧困にあえぐ民衆の心をつかみ、浄土真宗本願寺の中興の祖として現在の礎を築いた人物である。本作は全編にセリフがある物語構成になっており、川本のこれまでの詩のような短編作品と比べると、劇映画の構成に近い。差別という重いテーマに挑み、人間のドラマとして描いた川面と野仕事は初めてである。そして私たちは他にもまだ見たことがない川本の仕事を、この作品の中で目の当たりにする。まず、百体を超えると思われる人形の数々。荒くれ者、田舎女房、子どもたち・・・その顔が個性的で表情の豊かであること。川本は立役以外の人形について「いろいろ試せるし、遊べる」と言う。この造形の深さが作品の豊さに直結している。また寺に押し入る山法師や応援する民衆のシーンは、トルンカの「チェコの古代伝説」（1952年）を彷彿とさせる。次にセリフ劇であるということ。川本の人形の口は動かない。これは実力派の役者を声優として贅沢に起用し、セリフにリアリティを持たせている。映画的な構図もこの作品の見どころの一つであろう。かつて東邦に在籍した川本は、衣笠貞之助監督にフィルムをもらって、コマやカット割りの研究をしたというが、その経験がここでふんだんに活かされている。そして映画的な話法で語られるストーリー、日本画技法のたらし込みで描かれた山を越える蓮如の姿、死に際の妻、蓮祐の横顔、攻め込む山法師の躍動する群衆シーン。「蓮如とその母」は、人形アニメーションの域を超えた壮大なドラマに仕上げられている。

■キャスト

・池上季実子
・大門正明
・渡辺美佐子
・三国連太郎
・泉ピン子
・小沢昭一
・高松英郎
・西沢由郎
・後藤陽吉
・弓場俊次
・松波喬介
・宮崎靖
・黒柳徹子
・岸田今日子
・小池朝雄

■メインスタッフ

・監督／川本喜八郎
・作画監督／川本喜八郎、峰岸裕和、大向とき子、長崎希、槙坂千鶴子、田嶋富美子、桂沢良弘、秦泉寺博
・製作／安東民兒
・原作／平井清隆
・企画／東上高志
・脚本／新藤兼人
・撮影／田村実、白組スタジオ
・美術／小前隆、徳山正美、壬生露彦、中川涼
・編集／相澤尚子
・音楽／武満徹、東京コンサーツ
・録音／甲藤勇、東京テレビセンター

■詳細な評測と推薦

「蓮如とその母」は、1981年に公開された川本喜八郎監督による人形アニメーション映画であり、その深いテーマと美しいビジュアル表現が評価されています。この作品は、室町時代の浄土真宗の指導者である蓮如上人の生涯と、彼の母との再会を描いています。以下では、この作品の詳細な評測と推薦を行います。

ストーリーとテーマ

「蓮如とその母」は、蓮如上人の生涯を中心に、彼の母との再会とその後の人生を描いています。蓮如は、妻に先立たれ、七人の子を抱えて苦難の道を歩みますが、その中で彼の母との再会が大きな転機となります。この作品は、母と子の絆、そして差別という重いテーマを扱っています。特に、蓮如の母が下人という卑しい身分を嘆きながらも、念仏によって悔いのない人生を送れたと語るシーンは、視聴者に深い感動を与えます。このテーマは、当時の社会問題である同和問題を背景にしており、川本監督がそれを人間のドラマとして描いた点が評価されています。

ビジュアルと技術

川本喜八郎監督の人形アニメーションは、その美しさと緻密さで知られています。「蓮如とその母」でも、百体以上の人形が使用され、それぞれが個性的な表情と動きを持っています。特に、荒くれ者や田舎女房、子どもたちの表情は非常にリアルで、視聴者に強い印象を与えます。また、寺に押し入る山法師や応援する民衆のシーンは、チェコのアニメーション監督、トルンカの作品を彷彿とさせ、ダイナミックな群衆シーンが見事に描かれています。さらに、映画的な構図やカット割りも見事で、川本監督が東邦在籍時に衣笠貞之助監督から学んだ技術が活かされています。日本画技法のたらし込みで描かれた山を越える蓮如の姿や、死に際の妻の横顔など、ビジュアル面でも非常に高い評価を受けています。

音楽と音響

音楽は武満徹が担当し、東京コンサーツが制作しています。武満徹の音楽は、作品のテーマと深く結びついており、視聴者の感情を引き立てる役割を果たしています。特に、蓮如と母の再会シーンや、蓮如が本願寺再建のために働くシーンでの音楽は、視聴者に深い感動を与えます。また、録音は甲藤勇と東京テレビセンターが担当し、セリフのリアリティを高めることに成功しています。川本監督の人形アニメーションでは、人形の口は動かないため、声優の演技が非常に重要となりますが、本作では実力派の役者が起用され、セリフにリアリティを持たせることに成功しています。

キャストとスタッフ

キャストには、池上季実子、大門正明、渡辺美佐子、三国連太郎、泉ピン子、小沢昭一、高松英郎、西沢由郎、後藤陽吉、弓場俊次、松波喬介、宮崎靖、黒柳徹子、岸田今日子、小池朝雄など、豪華な顔ぶれが揃っています。これらの役者は、セリフのリアリティを高めるために重要な役割を果たしており、特に蓮如役の池上季実子や母役の大門正明の演技は高く評価されています。スタッフ面では、監督の川本喜八郎をはじめ、作画監督の峰岸裕和、大向とき子、長崎希、槙坂千鶴子、田嶋富美子、桂沢良弘、秦泉寺博、製作の安東民兒、原作の平井清隆、企画の東上高志、脚本の新藤兼人、撮影の田村実と白組スタジオ、美術の小前隆、徳山正美、壬生露彦、中川涼、編集の相澤尚子、音楽の武満徹と東京コンサーツ、録音の甲藤勇と東京テレビセンターなど、各分野のプロフェッショナルが集結しています。これらのスタッフの協力により、「蓮如とその母」は完成度の高い作品に仕上がっています。