『犬儒戯画』の深いテーマと芸術性を徹底評価

『犬儒戯画』の深いテーマと芸術性を徹底評価

犬儒戯画 - ケンジュギガ - の深遠なる世界

■公開メディア

自主制作

■原作メディア

アニメオリジナル

■公開日

1970年

■分数

8分

■原作

・原作/横光利一「シルクハット」より

■監督

・演出/川本喜八郎

■ストーリー

詳細

ドッグレースで賭けをする観客たち。そこにシルクハットに燕尾服という出で立ちで現れたスターターが、犬の首輪に魚を下げた竿をつけると、犬たちはお互いの魚を奪い合いレースどころではなくなる。それを見てどなる観客にスターターは「われわれの幸福は犬になることでしょうか」「何が起こりつつあるかよくご注意ください」と叫び出す。やがてスターターあレースの管理人によって馘首されるが、闇の中で何が企てられているか知らせる義務があるのだとなおも演説を続ける。暗がりの中でスピーカーが叫ぶ見えないレースの実況。次第に観客は「灯りをつける!」「犬を見せろ!」と叫び出す。そしてスターターは一発の銃声に倒れる。やがて灯りがついたコースにはスターターが倒れ、スピーカーから流れる犬のいないレースの実況が場内に響き渡る。レースを八百長だと叫びコースに下りた観客たちは次々と首輪をつけた犬に変わってしまう。倒れたスターターの傍らに赤い薔薇が咲く。

■解説

詳細

犬儒とは古代ギリシャ哲学の一派である犬儒学派(キニク学派)に由来し、「皮肉」を意味する「シニカル」の語源である。川本の「犬儒戯画」は横光利一の短編小説「シルクハット」(1938年)を下書きに制作されている。川本は原作のプロットだけを借りて、トルンカの死やチェコに対する思いを作品に込めた。

1963年トルンカ・スタジオを訪ね二年間滞在した川本は、トルンカの遺作となった「手」(1965年)のテスト撮影を見て、日本への帰途についた。「手」は、アルルカンが粘土で植木鉢を創作し、愛する花を育てるというささやかな行為が、見えない権力によってねじ伏せられるという内容である。トルンカが最後に作った政治色の濃いアニメーションから、川本が受けた影響は計りしれない。”人間の顔をした社会主義”をスローガンに自由を謳歌したチェコのドプチェク政権が、ソ連の侵攻によって圧殺されても「自由の芽が出てくる」という願いを込めて、この作品のラストシーンに薔薇の花を咲かせたのだという。

本作は、人形を動かしてスチール撮影したものを紙焼きし、それをフィルムで撮影するという二重、三重の手間をかけて制作されている。この作業の間に人形やスチールに合ったハーフトーンは四捨五入され、モノクロのハイコントラストな絵を作り上げている。観衆のまぶたや口元に深い闇を落としたこの影はセリフよりも饒舌である。またライティングでできた影の表情は、川本のこの後に展開する人形の喜怒哀楽と、さらにその間にあるえも言われぬ表情を演出する大切な要素となっていくのである。スターターの声はアングラ演劇の演出家であるニコラ・バタイユが務めている。

■キャスト

詳細

・ニコラ・バタイユ
・ジャン・ミッシェル・ソラント
・フランソワ・グローイエ
・セルジュ・フリボー

■メインスタッフ

詳細

・脚本/川本喜八郎
・演出/川本喜八郎
・美術/川本喜八郎
・人形/川本喜八郎
・アニメーション/川本喜八郎
・フランス語翻訳/ジャン・カンピニオン
・撮影/飯塚進、吉岡謙
・スチール撮影/丸山淳子
・音響効果/吉田稔
・録音/伊藤一男
・協力/安藤映子、三角永子、長尾明代、來道子、斉藤真理子、塩沢珠江、後藤時成、見米豊、中川涼、及川功一、早川明子、田村実、吉岡謙

犬儒戯画 - ケンジュギガ - の深遠なる世界

川本喜八郎監督の「犬儒戯画 - ケンジュギガ -」は、1970年に公開された自主制作のアニメーション作品であり、その深遠なテーマと独特の表現手法により、アニメーションの歴史にその名を刻んでいます。この作品は、横光利一の短編小説「シルクハット」を原作にしていますが、川本監督はそのプロットを借りつつも、自身の経験や思想を反映させた独自の世界を創造しました。

ストーリーの解釈

「犬儒戯画」のストーリーは、ドッグレース場を舞台に展開されます。観客たちが賭けに熱中する中、シルクハットと燕尾服を身にまとったスターターが登場し、犬たちの首輪に魚を下げた竿をつけます。これにより、犬たちはレースを忘れ、魚を奪い合うようになります。このシーンは、社会の競争と欲望を象徴しており、スターターの言葉「われわれの幸福は犬になることでしょうか」「何が起こりつつあるかよくご注意ください」は、観客たちに自らの行動を省みるよう促しています。

スターターはレースの管理人によって解雇されますが、それでも闇の中で何が企てられているかを伝える義務があると演説を続けます。この演説は、権力や社会の裏側で行われている不正を暴くためのものであり、観客たちは「灯りをつける!」「犬を見せろ!」と叫び始めます。しかし、スターターは銃声に倒れ、灯りがついたコースには彼の亡骸が横たわります。そして、犬のいないレースの実況が流れる中、観客たちは次々と犬に変わっていきます。この結末は、社会の不条理や人間の愚かさを痛烈に批判するものであり、倒れたスターターの傍らに咲く赤い薔薇は、希望や自由への願いを象徴しています。

制作背景と影響

川本喜八郎は、1963年にチェコのトルンカ・スタジオを訪れ、2年間滞在しました。この期間中に、トルンカの遺作「手」のテスト撮影を見た川本は、その政治的なメッセージと表現手法に深く感銘を受けました。「手」は、アルルカンが粘土で植木鉢を創作し、愛する花を育てるというささやかな行為が、見えない権力によってねじ伏せられるという内容で、トルンカの最後の作品として知られています。川本はこの経験から、「犬儒戯画」に自身の思想やチェコに対する思いを込めることを決意しました。

チェコのドプチェク政権は、「人間の顔をした社会主義」をスローガンに自由を謳歌していましたが、ソ連の侵攻によって圧殺されました。しかし、川本は「自由の芽が出てくる」という願いを込めて、「犬儒戯画」のラストシーンに赤い薔薇を咲かせました。この薔薇は、希望や自由への願いを象徴するだけでなく、トルンカの影響とチェコへの敬意を示すものでもあります。

制作技術と表現手法

「犬儒戯画」は、人形を動かしてスチール撮影したものを紙焼きし、それをフィルムで撮影するという複雑な手法を用いて制作されました。この作業は二重、三重の手間を要し、人形やスチールのハーフトーンが四捨五入されることで、モノクロのハイコントラストな絵が生まれました。このハイコントラストな映像は、観客のまぶたや口元に深い闇を落とし、セリフよりも饒舌な表現を可能にしました。また、ライティングによる影の表情は、川本の後の作品でも重要な要素となり、人形の喜怒哀楽や微妙な感情を描き出す手段となりました。

スターターの声を担当したニコラ・バタイユは、アングラ演劇の演出家として知られ、彼の声は作品のテーマを深化させる重要な役割を果たしました。バタイユの声は、スターターの演説をよりリアルに、そして観客たちに強烈な印象を与えるものにしました。

キャストとスタッフ

「犬儒戯画」のキャストには、ニコラ・バタイユ、ジャン・ミッシェル・ソラント、フランソワ・グローイエ、セルジュ・フリボーが名を連ねています。これらの声優たちは、作品のテーマを深化させるために重要な役割を果たしました。また、メインスタッフには川本喜八郎自身が脚本、演出、美術、人形、アニメーションを担当し、フランス語翻訳にはジャン・カンピニオンが参加しました。撮影には飯塚進と吉岡謙、スチール撮影には丸山淳子、音響効果には吉田稔、録音には伊藤一男が携わり、多くのスタッフが協力してこの作品を完成させました。

評価と影響

「犬儒戯画」は、その独特のテーマと表現手法により、高い評価を受けてきました。特に、社会の不条理や人間の愚かさを描いたストーリーは、多くの視聴者に深い感銘を与えました。また、モノクロのハイコントラストな映像とライティングによる影の表現は、川本の後の作品でも引き継がれ、アニメーションの新たな可能性を示すものとなりました。

この作品は、チェコのアニメーション作家トルンカの影響を強く受けており、チェコの自由への願いや希望を象徴する赤い薔薇は、多くの視聴者に感動を与えました。川本の「犬儒戯画」は、アニメーションの芸術性と社会性を追求する作品として、今後もその価値を高めていくことでしょう。

推薦と視聴方法

「犬儒戯画」は、社会の不条理や人間の愚かさを描いた深遠なテーマと、独特の表現手法により、アニメーションの新たな可能性を示す作品です。この作品を視聴することで、視聴者は自身の行動や社会のあり方を省みる機会を得ることができるでしょう。また、モノクロのハイコントラストな映像とライティングによる影の表現は、視覚的な美しさを堪能することができます。

「犬儒戯画」は、DVDやオンラインストリーミングサービスで視聴することが可能です。特に、アニメーションの歴史や芸術性に興味がある方には強く推薦します。また、チェコのアニメーションやトルンカの作品に興味がある方にも、この作品は必見です。視聴後は、川本喜八郎の他の作品やチェコのアニメーション作品にも触れてみてください。そうすることで、「犬儒戯画」の深遠な世界をより深く理解することができるでしょう。

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