無力感と道徳的ジレンマ

リヴァイアサンプレス:

難破した船員はAとBの2人でした。同時に、二人は一人しか乗れない板を見つけ、そこに向かって泳ごうとしました。 A が最初に板まで泳いで行き、その板の上に登りました。 Bが到着すると、Aを甲板から突き落とし、溺れそうになっていた自分も甲板に登った。結局、Aさんは溺死し、Bさんは捜索救助隊によって救助されました。 Bは殺人罪で起訴されるべきでしょうか？上記は古代ギリシャの学者カルネアデスが考案した思考実験です。このような道徳的ジレンマの例は数多くあり、例えば、乗組員が生き残るために人肉を食べたという有名なクイーン対ダドリー＆スティーブンス事件は、英米の法制度では非常に有名です。道徳的行動は形式的な推論から導かれるのでしょうか?社会直観主義者はおそらくそうは思わないだろう。多くの場合、人々は正義、法律、人権、抽象的な倫理的価値観を気にせずに道徳的判断を下す傾向があるからだ。いずれにせよ、私たちはこの種の倫理的なジレンマにしばしば直面します。基本的な心理的構成と思考の枠組みをどのように持つかは、誰もが考えるべき問題かもしれません。 「不適切なものを見るな、不適切なものを聴くな、不適切なことを語るな」というのは（東洋文明において）古くからある諺です。これは日本の彫刻「三猿」からインスピレーションを得たもので、3匹の猿のうち1匹は目隠しをし、1匹は耳を覆い、1匹は口を覆っています。 （訳者注：『論語』のこの一文は8世紀頃に日本に伝わり、日本的な特徴を持つ「三猿」文化を形成した）西洋では、この一文は法律や道徳に反するものを見ないように教えるためによく使われますが、本来の意味は、人々は常に邪悪な考えを捨てるべきであり、それは行動にも当てはまるということです。

しかし、「悪」から隠れる場所がどこにもなくなったとき、私たちはどうすればいいのでしょうか?それを見たり聞いたりしなければならないとき、あるいはそれを取り除く力がない場合は、私たちはどうすればよいのでしょうか?声を上げたり悪に立ち向かうという私たちの選択が、私たち自身や私たちが愛する人々や物に直接的な脅威をもたらすとしたらどうでしょうか?

人生において、2 つの「間違い」またはジレンマから選択を迫られ、どちらの選択も私たちが固く信じている中核的な価値観、義務、および約束を裏切ることになる場合、私たちはどうすればよいでしょうか。私たちはどのようにしてこれらのいわゆる「選択」を行うのでしょうか?あるいは、さらに言えば、私たちはこれらの「間違い」とどのように共存するのでしょうか?これらの犯罪は私たち自身が犯したものなのか、それとも他人が仕組んだものなのか？

「道徳的ジレンマ」の概念

1984年、哲学者アンドリュー・ジェームトンは初めて「道徳的ジレンマ」という概念を提唱しました。これは、特に基本的な道徳基準や倫理的責任に関して、看護師が制度やシステムの制限のために正しいと思うことを実行できない状況を表しています。

COVID-19パンデミックに巻き込まれた世界では、倫理的なジレンマが今日の医療従事者や公衆衛生上の出来事の矢面に立たされている人々に前例のないプレッシャーを与えています。しかし、彼らは一人ではありません。 2020年、感染症の大流行が世界保健に及ぼした深刻な脅威と、それが社会、政治、経済情勢にもたらした大きな衝撃により、多くの人々が道徳的ジレンマに陥る困難な局面に直面せざるを得なくなりました。時には、以前は倫理的な行動だと考えられていたことが、他の選択肢があった場合に人が本能的に選択して行う行動とは異なる場合があります。

例:

親は、子供を学校に通わせるかどうか、自宅で教育するかどうかというジレンマに直面しています。アメリカ人の個人的な価値観や信念は、州や国の安全規制（あるいはその欠如）と矛盾しています。中小企業は、従業員とその家族に対する受託者責任にもかかわらず、損失を削減するために閉鎖せざるを得ませんでした。家族は安全な住居を必要としているが、失業やその他の財産上の問題によりそれを維持することができず、生計を立てるために家を売却しなければならなかった。人々は高齢者や、一人暮らしや重病の親戚や友人ともっと時間を過ごしたいと願っているが、隔離措置のせいでそれができない。私たちは社会的、文化的な不平等と不正義に巻き込まれていますが、将来も何も変わらないだろうという漠然とした感覚も持っています。私たちが認識している「市民」と「市民行動」は構造的な変化を遂げてきましたが、私たちは個人レベルでも集団レベルでもこれらの価値観を尊重してきませんでした。社会問題や政治問題で私たちに反対する「反対側」が生死を賭けた攻撃を開始したが、私たちはそれに対して何もできない。道徳的なジレンマに陥ると、私たちは不満を表現する方法がなかったり、制限されていたり、評価されていなかったり、耳を傾けてもらえなかったり、理解されていなかったりすると感じることがよくあります。私たちは怒り、嫌悪、恐怖、欲求不満といった感情に簡単に支配されてしまいます。徐々に、そのような感情が私たちの生活を不安、疲労、絶望で満たします。破滅感が忍び寄り、私たちは「私たちは何者で、世界とは何なのか」という疑問を抱く。研究によると、道徳的苦痛は、燃え尽き、疲労、麻痺、孤立、道徳的感受性の低下（「共感疲労」としても知られる）などの永続的な影響を及ぼすこともわかっています。

(journals.lww.com/ajnonline/Fulltext/2017/02001/Cultivating_Moral_Resilience.3.aspx)(journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0969733019889400) 医療や社会福祉の現場で道徳的ジレンマに悩まされているのは医師だけではない。医療従事者の行動やケアに対する姿勢の変化により、患者に悪影響が及ぶ可能性もあります。日常生活において、この種の石灰化は人間関係や医師と患者の関係に深刻なダメージを与える可能性があります。極端な場合には、「正常化」につながる可能性さえあります。

無力さは道徳的ジレンマの核心です。これは、私たちが制御できない外部要因により、受動的または能動的に妥協したり、大切なものを諦めたりしなければならないという感情です。

道徳的ジレンマが私たちの中にどのように存在するか

人間は実は脅威を検知してそれに対応するのがあまり得意ではありません。物理的な脅威と同様に、心理的および実存的な脅威、または「魂」の脅威（私たちの誠実さに対する脅威など）は、人間の神経系を活性化し、穏やかで制御された状態から生存モードに移行させます。脳の最も原始的な部分である爬虫類脳は常に警戒態勢をとっており、環境内で他の潜在的な脅威を絶えず探しており、体は常に対応する準備ができています。

(www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4406946/)

これが起こると、大量のストレス化学物質が放出され、身体的、感情的、認知的変化を引き起こします。心拍数と血圧が上昇し、筋肉が緊張します。不要な機能はすべて休止状態になります。ネガティブな感情が活性化されます。感情やニーズを適切に表現し伝えることは、苦痛で疲れる作業になることがあります。私たちの注意は縮小し、潜在的な脅威にますます集中するようになっています。私たちの共感力は弱まり、向社会的な行動を妨げ、本能的で防御的なデフォルトの思考や行動パターンへの依存を強めています。

(www.sciencedirect.com/topics/social-sciences/prosocial-behavior)

通常、私たちはこのストレスに対処し、管理するために、戦う（脅威の原因を中和するか、より大きな力を発揮することによって制御を取り戻そうとする）という 3 つの方法のいずれかで自発的な行動をとります。逃避（諦めて状況から抜け出す、または道徳的ジレンマにおける葛藤を緩和すること）そして固まる（無活動または麻痺、「それを乗り越える」ことで自分自身を麻痺させる、そして気をそらす、否定する、またはジレンマの原因から完全に離れる）。

倫理的なジレンマを繰り返し経験しながらも、介入を一切行わないと、特に組織内では、継続的な不調和状態が蓄積され、非常に特殊な意味合いで不調和が蓄積されます。言い換えれば、どんな危機も終わった後も、私たちの生活の中に「道徳的残滓」や「道徳的斑点」（「忍び寄る影響」とも呼ばれる）が残るのです。詰まった動脈のように、この道徳的閉塞は私たちの命を脅かす可能性があります。

道徳的回復力の育成

レジリエンスは一般的に、ストレス、逆境、トラウマから回復したり適応したりする能力として定義されます。そうすれば、こうした変化や課題は私たちの生活に害を与えるのではなく、豊かにし、私たちの精神を弱めるのではなく、強くしてくれるのです。この回復力により、困難を経験した後でも、必ずしも体中に傷が残るわけではないことがわかります。課題は一時的なものにすぎません。

道徳的回復力はまだ初期の概念であり、心理的回復力と関連していますが、この 2 つは 3 つの点で異なります。臨床倫理学の分野の第一人者であり、ジョンズ・ホプキンス大学看護学部の看護学および小児科の教授であるシンダ・ヒルトン・ラッシュトンは、「道徳的回復力は、人間の経験の道徳的側面、決断、義務、関係の道徳的複雑さ、そして良心、混乱、道徳的ジレンマを引き起こす避けられない道徳的課題に関係している」と考えています。

道徳的領域は人間の本質のあらゆる側面（生物学的、心理学的、認知的、精神的、関係的）と非常に密接に関係しているため、道徳的回復力を養うことは、人間全体としてだけでなく、多くの特定のレベルでも私たちに利益をもたらします。

2021年は私たちにとって挑戦者としての年であり続けています。あなたも道徳的なジレンマに陥り、必死に自分の粘り強さを保ちたいと思っているなら、次の方法が道徳的回復力を養うのに役立つかもしれません。

自律性：自己管理の技術を学ぶ

自律性とは、すべての状況や結果をコントロールすることはできないかもしれないと認めながらも、自分自身の身体、心、精神は常にコントロールできるという、現在中心の認識です。これは、困難な状況でも優雅な姿勢を維持する方法を学ぶことです。まず、注意を内側に向けるか、内面の意識を訓練することができます。内なる意識は、私たちの感情、思考、行動に影響を与えている可能性のある、表面下の意識のより深い層に気づくのに役立ちます。

自分自身を探求するために内面に向かうとき、不快な感情を排除しようとしたり、それを間違いや弱点として判断したりしないでください。私たちはこれらの感情に、私たちが知らない新しい出来事が起こっていることを知らせる余地を与えます。私たちは、どのような道徳的価値観、義務、責任が果たされていないのか、これらの感情が苦境と私たちの関係をどのように表しているのか、そしてこれらの価値観を実現する他の方法はあるのかを観察し、考えます。

そうすることで、私たちは「寛容の窓」を維持するために非常に重要であり、自立の鍵となる心の平穏と視点を取り戻すことができます。このように、私たちは、どんなに困難であっても、常に意識的な選択を行い、自分の中核となる価値観を実践し、原則に基づいた選択を行い、賢明で倫理的な行動を取ることができます。この内なる空間を探索する 2 つの方法は、マインドフルネスの実践と滴定です。

自己認識：「自分に正直であること」

ラッシュトンは、道徳的回復力は道徳的責任感に基づいていると信じています。 「道徳的正義に反する状況に陥ったとき、道徳的責任感は、私たちが誰であり、何を信じているかを常に思い出させてくれます。」この警戒心や道徳心は、どのような価値観、責任、使命が私たちの道徳的核心を本当に構成しているのかを根本的に認識することを求めています。これは、私たちが常に自分自身を反省しなければならないことを意味します。そうしないと、自己満足に陥り、道徳的感受性を失ってしまう危険があります。同時に、私たちは独断的かつ恣意的になることを嫌がります。

自己認識は意識的な経験のダンスであり、謙虚に、慎重に、そして勇気を持って自分自身の感情、考え、欲求を探求する必要があります。私はこの態度を「慈悲深い誠実さ」と呼びたいと思います。私たちはまた、明確で透明性を保たなければなりません。つまり、私たちの信念が偏っていたり、歪んでいたり、近視眼的であったり、間違っていたりする可能性がある場合には、それを喜んで認めるということです。同時に、起こりうる変更、修正、予期しない結果に対しても柔軟に対応する必要があります。自己認識の能力は、私たちに頭を高く上げ、目を見開き、肩の力を抜き、信念を固く保ち、最小限の個人的な犠牲で道徳的ジレンマに対処する可能性を見つける余地を与えてくれます。

自己表現：道徳的純粋さと能力をもって選択と貢献を行う

自分を表現する方法はたくさんありますが、道徳的回復力に関しては、道徳的能力を養うことと、はっきりと自信を持って話すことの 2 つの方法が特に効果的です。

道徳的能力には、ラッシュトンが道徳的体現と呼ぶものが含まれます。これは、私たちが抱く真実と信念が行動に反映され、それによって私たちが抱く価値観を生きていることを実証したいという願望です。私たちは、道徳的な語彙、想像力、態度、首尾一貫した性格、そして活力のある道徳的姿勢を蓄積し、培い、忍耐強く、オープンで、他者の価値観、ニーズ、希望、恐怖に寛容でありながら、「道徳的な」世界に身を浸します。

はっきりと自信を持って話すということは、自分の悩みや疑問を利用して、同じ状況にある他の人と共鳴できるように懸念を表現することを意味します。道徳的ジレンマをそれ自体の結果として見るのではなく、状況の力学に関するより広範でより実質的な会話の始まりとして見る方がよいでしょう。明確で自信に満ちた表現には、私たちの道徳観に修復不可能なダメージを与えた可能性のある状況、システム、または関係から、一時的または永久的にいつ逃れるべきかを知ることも含まれます。

意味の創造：意味を求めるのではなく、意味を創造する

意味を創造するということは、人生、人間関係、そして自分自身との関わりの中で、感じ、知り、理解するプロセスです。それは私たちに記憶を整理し、経験を形作る方法を提供します。意味は、私たちの価値観、信念、期待、そして人生に対する態度における矛盾を調整するのにも役立ちます。これは道徳的に困難な時期には特に重要です。

無意味な苦しみは道徳的回復力において重要な問題です。私たちはよく、「何も変わらないのなら、なぜ『それを』続ける必要があるのか​​」と自分自身に問いかけます。または「私は変わるために全力を尽くしましたが、それでも十分ではありませんでした。」あるいは「私は本質的に欠陥のある壊れたシステムと戦っています。」こうした不満の感情は、非常に否定的で絶望的な経験を引き起こす可能性がありますが、さらなる原則的な行動の基盤を築く可能性もあります。

意味を生み出す一つの方法は、明らかではなかったり、以前は無視していたり​​した状況を再考することです。考えてみてください。何かの情報を見落としたり、誤解したりしたことはありませんか?あなたの不満は何らかの情報を隠していますか?より多くの主体の視点から、より微妙な視点で状況を見ることはできるでしょうか?

さらに、この状況が私たちに成長を要求している方向について考えてみましょう。自分自身、他人、そして人生について何か新しい発見や洞察はありますか?あなたの強みは何ですか?どのような弱点が再び増加しているのでしょうか?どの価値観、責任、道徳基準が時間の経過とともに関連性を保ち、どれが変化しているのか?これらすべての意味はどのようにして私たちの中に存在しているのでしょうか?

意味を創造するときによくある間違いは、これは反省すべき教訓である、あるいはこれは「私たちに伝えるべき物語」であると考えることです。そうではありません。意味の創造は、痛みの土壌に幸せな花を植えようとすることではありませんし、必ずしも現実を慎重に見るよう教えることでもありません。意味を創造するということは、単に道徳的ジレンマについての私たちの思考と感情を広げ、常に正直で原則に基づいた行動を取り、前進できるようにすることです。

つながり: 他者とのつながりを保つ

世界とのつながりを保つことは人生の事実です。最近の神経科学の研究によると、人間関係に対する私たちの執着は生まれつきのものであると示唆されています。私たちが他の人と話をするとき、私たちの脳内のミラーニューロンが発火し、他の人が伝えている感情や行動を模倣するのです。カリフォルニア大学ロサンゼルス校社会認知神経科学研究所所長のマシュー・リーバーマン氏は、人間の対人関係への欲求は食料や住居よりもさらに基本的なものであり、それが人々の行動の主な原動力であると考えています。

(newsroom.ucla.edu/releases/we-are-hard-wired-to-be-social-248746)

道徳的回復力を養うプロセスにおいて、信頼できる人々を参加させることは絶対に必要です。ここで「信頼」という言葉に注意してください。それが鍵です。困難、難しい感情、フラストレーションを他人と共有すると、私たちは弱さを感じてしまいます。道徳的なジレンマに陥っているときこそ、私たちが、そこにいてくれる、耳を傾けてくれる、共感を示してくれる、同情心を示してくれる、思いやりの真摯さを与えてくれる、そして私たちの心に希望の種を植えてくれると期待できない人々と、様子見をすべきときではないのです。道徳的なジレンマに陥っているのは自分だけではないと知ることで、孤独感や絶望感を大幅に軽減することができます。

私たちが最もコントロールを望むのは、コントロールが手に入らないときであり、道徳的なジレンマに陥っているときは、本当にコントロールが効かないと感じることがあります。私たちの無力感、絶望感、無力感の経験が、可能で原則に基づいた選択の世界へと移行すると、道徳的ジレンマの影響が緩和され、道徳的回復力が育まれます。

ミシェル・デマルコ

翻訳：Xixi

校正/ウサギの軽い足音

オリジナル記事/elemental.medium.com/that-powerlessness-you-feel-is-called-moral-distress-291795756fff

この記事はクリエイティブ・コモンズ・アグリーメント（BY-NC）に基づいており、XixiがLeviathanに掲載しています。

この記事は著者の見解を反映したものであり、必ずしもリヴァイアサンの立場を代表するものではありません。