『攻殻機動隊 ARISE border3 Ghost Tears』レビュー：感動の涙と深遠なテーマ

『攻殻機動隊 ARISE border3 Ghost Tears』の深層に迫る：未来社会の闇とヒロインの成長

『攻殻機動隊 ARISE border3 Ghost Tears』は、士郎正宗の原作を基にしたアニメシリーズ『攻殻機動隊 ARISE』の第三章であり、2014年6月28日から7月12日まで劇場公開された作品です。この作品は、未来社会におけるサイバーテロと人間の存在意義を問う深遠なテーマを描きつつ、主人公・草薙素子の成長と彼女を取り巻く人間関係を詳細に描いています。本稿では、この作品のストーリー、キャラクター、制作背景、そしてその魅力について詳しく解説します。

ストーリー

『攻殻機動隊 ARISE border3 Ghost Tears』の舞台は、A.D.2027年の日本。公安9課がまだ攻性部隊として機能していない時代、公安捜査の限界を感じていた荒巻大輔の前に、陸軍501機関所属の草薙素子三佐が現れます。彼女は最高度のフィジカルと電脳戦スキルを持つ一方で、未熟さも抱えています。荒巻と協力しながら、次々と発生する犯罪に対処する中で、草薙は501機関との関係を見つめ直すこととなります。

物語は、草薙素子が恋人である義体技師ホセと過ごすシーンから始まります。そこにバトーから西ノ内のビルで起きた爆弾テロの急報が届き、草薙は現場に急行します。テロリストたちは、ファイア・スターターと噂される超ウィザード級ハッカーによって偽の記憶が植え付けられていたことが判明します。さらに、主犯のカルディス人の胸には、かつてクザン共和国で起きたカルディス人独立戦争の英雄「スクラサス」のシンボルマークであるティアドロップ・ダガーの刺青が刻まれていました。これを見た草薙は、「スクラサスは戦争中に死んだはず」と断言します。

同時期、山の手のダムで起きた爆発で一人の刑事が殺されていました。その所持品には「人魚の脚（MERMAID’S LEGS）」という店名の名刺と、「エアリアル」というタグのついた義体の脚部が遺されていました。事件を捜査する新浜県警の刑事トグサは、クザン共和国水企業の代表者サイードにたどり着きます。

会議場の爆発物の正体やファイア・スターターの正体、そして二つの事件が交錯する中で、スクラサスの狙いが明らかになっていきます。この物語は、草薙素子が少佐と呼ばれる前夜の物語であり、彼女の成長と仲間たちとの絆が描かれています。

キャラクター

『攻殻機動隊 ARISE border3 Ghost Tears』では、主要キャラクターの背景と成長が詳細に描かれています。以下に主要キャラクターを紹介します。

草薙素子

草薙素子は、元陸軍501機関所属の完全義体のサイボーグです。生まれた時から生身の肉体を持ったことがなく、その操作技術は他のサイボーグを凌駕します。ハッカースキルも超ウィザード級とされ、14歳にして軍部のデータを書き換えたと言われています。恩人であるマムロ中佐の推薦状により501機関から独立し、軍を対象としたフリーのコンサルタントとしての活動を始めました。荒巻からの公安9課への異動の誘いを断り、自身の部隊を設立し、正式認可を得るために雇われ部隊として実績を残そうとしています。

荒巻大輔

荒巻大輔は、通称「部長」と呼ばれる公安9課の長です。旧調査部出身で、その行動力と用意周到さから軍や政界から一目置かれています。テロなどの国家安全を脅かす凶悪犯罪を未然に防ぐために、内閣総理大臣直轄の攻性の捜査機関設立を目論んでいます。草薙とは仕事を依頼する関係にあり、配下に引き入れようとしています。

バトー

バトーは、「眠らない眼」と呼ばれる義眼を持つ陸軍空挺特科第一出身の元特殊部隊員の大男です。最終階級は少佐で、全身のほとんどを義体化しており、多くの戦場を渡り歩いてきた数々の戦闘経験を持ち、特に電子戦を得意としています。戦場で草薙素子とも何度か顔を合わせているらしいです。強面の顔に似合わず情にもろく、なにかに付けて一言多く、剽軽な一面も持ち合わせています。草薙の部隊に参加し活動中です。

トグサ

トグサは、新浜県警刑事部の特捜刑事です。従軍経験があり、電脳化はしているが体はほとんど生身のままであり、妻子を持つ一家の長でもあります。刑事として状況の積み重ねによる推理考察を得意とし、弾詰まりなどの事故が少ないリボルバーを愛用しています。草薙の引き抜きを受け、新人として部隊に参加しました。

イシカワ

イシカワは、元陸軍情報部の大尉で、9課の中にあって最も経験豊富なベテランです。主にハッキングやネットの情報解析などの任務や支援を行い、防壁からウィルス、ワクチンの作成に対応する、縁の下の力持ち的な存在となっています。草薙の部隊に参加し活動中です。

サイトー

サイトーは、元海兵隊のエース・スナイパーで、最終階級は大尉です。狙撃に特化した義体を持ち、左目の狙撃支援システム「タカの眼」で衛星とリンクし、気象条件などを瞬時にフィードバックし、長距離弾道狙撃を可能としています。陸軍情報部や空挺特科との作戦経験もあり、ギャンブル好きでもあります。草薙の部隊に参加し活動中です。

パズ

パズは、陸軍警察の潜入調査員で、階級は中尉です。ナイフなどの近接格闘術を得意とし、内偵調査などで培った経験から、人を欺くことに長けています。旧態依然とした組織に身を置きながら自らの能力を生かす場を求めていたが、草薙が部隊を作ろうとしていることを知り部隊に参加しました。

ボーマ

ボーマは、陸軍空挺特科第一出身の元特殊部隊員で、スキンヘッドの義眼男です。最終階級は中尉で、爆発物を扱った特殊工作などを行なっていました。電子戦の技術や、ネットの捜査能力も高いです。外見とは裏腹に繊細な性格の持ち主であり、草薙の部隊に参加し活動中です。

ロジコマ

ロジコマは、2022年に製造され、コンテナ内部に武器や弾薬などを収容する熱光学迷彩装備の歩兵兵站用輸送支援車両です。ロジスティクス・コンベイヤー・マシンの略称でもあり、型番はLCM22です。指揮官を識別し自律支援する程度の発展型の人工知能は持ち合わせています。公安9課に試験配属されており、搭乗スペースは未搭載ですが、装備拡張が許可され腕部パーツの取付が行われています。

ホセ

ホセは、草薙素子の現在進行形の恋人とされる、マーメイドレッグというプライベートブランドを展開するオーダーカスタム専門の義体技師です。量産型をベースに客のオーダーに沿って斬新な加工を施すのが特徴で、現在、フリーコンサルとなった素子の義体のメンテナンスも手がけています。義体と生身の人間が別け隔てのない生活ができる世の中を待望しており、戦場で義体化し、サイボーグに必要なものは生活ではなく設備であると考え、今に至っています。

サイード

サイードは、カルディス人の独立運動による内戦が続いているクザン共和国の国営水企業の代表者です。産業省の誘致を受け日本国内にダムを所有しています。カルディス人でありながらクザンの国立大学出身で政府に協力する姿勢を見せており、内戦の平和的の解決を望むことを主張しています。四ヶ月前に発生したハリマダラ重工業へのサイバーテロを含む一連の事件を契機に国内派に服従することとなり、国内派ハリマダラ重工業との提携発表を間近に控えています。

エマ

エマは、電脳ネット・ゲームのヒットメーカーで「ティンマン」の名義で活躍していた戦災孤児の17歳です。501機関の長クルツがその腕を見込み、草薙素子の後任としてスカウトしました。少女型の全身義体を使用していますが、なんらかの理由で501機関から突如失踪しました。水売買の価格協定に対するデモで発生した銃撃事件の最中に、その身柄を素子たちに保護されました。

制作背景

『攻殻機動隊 ARISE border3 Ghost Tears』は、士郎正宗の原作を基にしたアニメシリーズ『攻殻機動隊 ARISE』の第三章として制作されました。監督、キャラクターデザイン、作画監督は黄瀬和哉が務め、シリーズ構成と脚本は冲方丁が担当しました。音楽はコーネリアスが手掛け、演出は浜名孝行が行いました。メカニックデザインは柳瀬敬之、3DCGIはオレンジ、3DCG監督は井野元英二、美術はBamboo、美術監督は竹田悠介と益城貴昌、プロップと美術設定は荒川直樹、動画検査は菅田朋子、色彩設計は土井和、色指定は野田採芳子、仕上検査は下川真里子、撮影監督は田中宏侍、モーショングラフィックは荒木宏文、特殊効果は村上正博、音響監督は岩浪美和、音響効果は小山恭正、編集は植松淳一が担当しました。アニメーション制作はProduction I.G、製作は「攻殻機動隊ARISE」製作委員会、配給は東宝映像事業部が行いました。

主題歌・楽曲

エンディングテーマ「Heart Grenade」は、ショーン・レノンが作詞し、小山田圭吾が作曲・編曲を担当しました。歌唱もショーン・レノンが務めています。この楽曲は、物語のテーマと深く結びついており、草薙素子の内面を象徴するようなメロディと歌詞が印象的です。

評価と魅力

『攻殻機動隊 ARISE border3 Ghost Tears』は、未来社会におけるサイバーテロと人間の存在意義を問う深遠なテーマを描きつつ、主人公・草薙素子の成長と彼女を取り巻く人間関係を詳細に描いた作品です。特に、草薙素子のキャラクターが深く掘り下げられており、彼女の未熟さと成長がリアルに描かれています。また、各キャラクターの背景と個性が詳細に描かれており、視聴者に深い共感を与えます。

制作面では、黄瀬和哉のキャラクターデザインと作画監督、冲方丁のシリーズ構成と脚本、コーネリアスの音楽など、各スタッフの高い技術と創造力が光っています。特に、3DCGIや特殊効果の使用により、未来社会のリアルな描写が実現されており、視覚的な魅力も大きいです。

また、エンディングテーマ「Heart Grenade」は、物語のテーマと深く結びついており、草薙素子の内面を象徴するようなメロディと歌詞が印象的です。ショーン・レノンの歌唱も作品の雰囲気を引き立てています。

推薦

『攻殻機動隊 ARISE border3 Ghost Tears』は、サイバーパンクやSFが好きな方、深遠なテーマを楽しみたい方、キャラクターの成長と人間関係に興味がある方におすすめです。また、アニメーションの技術や音楽に興味がある方にも楽しめる作品です。特に、草薙素子のキャラクターに共感し、彼女の成長を見守りたい方には必見の作品です。

この作品は、未来社会の闇とヒロインの成長を描いた深遠な物語であり、視覚的な魅力と音楽の美しさも兼ね備えた傑作です。ぜひ、劇場で鑑賞し、その世界観とキャラクターの魅力を体感してください。