「この世界のさらにいくつもの片隅に」レビュー：感動の深化と新たな視点

『この世界のさらにいくつもの片隅に』：新たな視点から描かれる戦争と日常の物語

■作品概要

『この世界のさらにいくつもの片隅に』は、2019年12月20日に公開されたアニメーション映画で、原作はこうの史代の同名漫画です。監督は片渕須直、制作はMAPPAが担当し、配給は東京テアトルが行いました。全1話、168分の長編作品で、戦争のただ中にあっても人々が生き抜く姿を描いています。

■ストーリー

広島県呉に嫁いだすずは、夫・周作とその家族に囲まれて、新たな生活を始めます。昭和19年、日本が戦争のただ中にあった頃、戦況が悪化し、生活は困難を極めますが、すずは工夫を重ね日々の暮らしを紡いでいきます。ある日、迷い込んだ遊郭でリンと出会い、境遇は異なるものの、呉で初めて出会った同世代の女性に心通わせていきます。しかしその中で、夫・周作とリンとのつながりに気づいてしまいます。すずはそれをそっと胸にしまい込みます。昭和20年3月、軍港のあった呉は大規模な空襲に見舞われ、その日から空襲はたび重なり、すずも大切なものを失ってしまいます。そして、昭和20年の夏がやってくるのです。

■解説

この映画は、大ヒット映画『この世界の片隅に』の単なる長尺版ではありません。250カットを超える新エピソードによって、これまで目にしていたシーンや人物像が、まったく異なる印象で息づきはじめます。『この世界の片隅に』を知る人も、知らない人も1本の新作として体感することになるでしょう。すずの内面を大人の表現で魅せる女優のん、岩井七世（リン役）、細谷佳正（周作役）など、前作のキャストがパワーアップして再集結しています。さらに遊郭の女性テル役として花澤香菜が初参加し、コトリンゴによる書き下ろしの新曲と共に、私たちを新たな世界へといざないます。

■キャスト

• 北條すず（旧姓：浦野）／のん
• 北條周作／細谷佳正
• 白木リン／岩井七世
• 北條円太郎／牛山茂
• 北條サン／新谷真弓
• 黒村径子／尾身美詞
• 黒村晴美／稲葉菜月

■メインスタッフ

• 監督／片渕須直
• 脚本／片渕須直
• 音楽／コトリンゴ
• 監督補／浦谷千恵
• 画面構成／浦谷千恵
• キャラクターデザイン／松原秀典
• 作画監督／松原秀典
• 美術監督／林孝輔
• プロデューサー／真木太郎
• 企画／丸山正雄

■メインキャラクタ

• 北條すず（旧姓：浦野）
  広島市江波に生まれる。絵を描くことが大好きな女性。18才で呉へ、北條家のお嫁にやって来る。夫の周作をはじめ、北條家を中心とした新しい暮らしが始まる。ある時迷い込んだ遊郭で同年代の女性・リンと出会う。
• 北條周作
  北條家長男。海軍軍法会議所の録事（書記官）を勤める。結婚し、すずの夫となる。慣れない環境で生活を始めるすずに優しく接する。実は結婚前に想いを寄せた女性がいるらしい。
• 白木リン
  すずが出会う女性。遊郭に迷いこんだすずを助け、仲良くなる。悩むすずに「この世界にそうそう居場所はなくなりゃせんよ」と声をかける。
• 北條円太郎
  周作の父。海軍の呉工廠に勤務する。どこかのんびりとしたムードで、家族を包みこんでいる。
• 北條サン
  周作の母。足を痛めており、ひとりで歩くのもままならない。穏やかに温かく家族を見守っている。
• 黒村径子
  周作の姉。娘の晴美を連れて北條家に出戻る。すずとは対照的にテキパキと働く。
• 黒村晴美
  周作の姪で、径子の娘。5才。すずと仲良くなり、ふたりで絵を描いたり船を見たりして日々を過ごす。おとなしい性格で、学校で友達ができるか心配している。

■関連作品

• この世界の片隅に

■主題歌・楽曲

• TM
• たんぽぽ（さらにいくつものversion）
• 歌／コトリンゴ

■詳細な評論

『この世界のさらにいくつもの片隅に』は、戦争という過酷な状況下でも人々が生き抜く姿を描いた作品です。原作のこうの史代の漫画を基に、片渕須直監督が新たな視点から物語を再構築しています。特に注目すべきは、250カット以上の新エピソードが追加されたことです。これにより、すずや周囲の人々の内面がより深く描かれ、観客に新たな感動を与えています。

すずのキャラクターは、前作以上にリアルに描かれています。のんの声優としての演技力が光り、すずの喜怒哀楽や内面の葛藤がリアルに伝わってきます。特に、遊郭でリンと出会うシーンでは、すずの純粋さと強さが際立っています。リン役の岩井七世も、すずとは対照的なキャラクターを演じ、二人の友情が物語に深みを与えています。

また、周作役の細谷佳正の演技も見逃せません。周作の優しさと内面の葛藤が丁寧に描かれ、すずとの関係性がより深く理解できます。新たに参加した花澤香菜のテル役も、遊郭の女性としての哀愁を感じさせ、物語に彩りを添えています。

音楽も本作の魅力の一つです。コトリンゴの新曲「たんぽぽ（さらにいくつものversion）」は、すずの心の動きを優しく包み込むように響きます。BGMも戦争の緊張感と日常の温かさを巧みに表現しており、観客の感情を引き立てています。

美術監督の林孝輔による背景美術も見事です。呉の街並みや空襲のシーンはリアルに描かれ、観客をその時代に引き込んでいます。キャラクターデザインと作画監督を担当した松原秀典の仕事も素晴らしく、キャラクターの表情や動きが細部まで丁寧に描かれています。

■推薦ポイント

『この世界のさらにいくつもの片隅に』は、戦争映画でありながら、日常の温かさや人々の絆を描いた作品です。特に、すずの成長と家族との絆が感動的です。新たなエピソードやキャラクターの深掘りにより、前作を知っている人も新たな発見があるでしょう。また、前作を知らない人でも、独立した一つの物語として楽しむことができます。

この作品は、戦争の悲惨さを描きつつも、希望や人間の強さを感じさせてくれます。家族や友人と一緒に観ることで、より深い感動を得られるでしょう。特に、戦争の歴史や人間の生き方に興味がある人には強くおすすめします。

また、美しいアニメーションと音楽も見逃せません。アニメーション映画の芸術性を堪能したい人にもおすすめです。コトリンゴの音楽は、心を癒す効果があり、観終わった後も余韻が残ることでしょう。

■まとめ

『この世界のさらにいくつもの片隅に』は、戦争という過酷な状況下でも人々が生き抜く姿を描いた感動的な作品です。新たなエピソードやキャラクターの深掘りにより、前作を超える感動を与えてくれます。美しいアニメーションと音楽も見逃せない魅力です。戦争の歴史や人間の生き方に興味がある人、家族や友人と感動を共有したい人、アニメーション映画の芸術性を堪能したい人に強くおすすめします。