『君を愛したひとりの僕へ』レビュー：感動のラブストーリーとその魅力

『君を愛したひとりの僕へ』 - 感動のラブストーリーと並行世界の魅力

■作品概要

『君を愛したひとりの僕へ』は、2022年10月7日に公開された劇場アニメーションで、乙野四方字の小説を原作としています。東映が配給し、トムス・エンタテインメントがアニメーション制作を担当しました。全98分の1話完結作品で、累計発行部数31万部を突破した人気小説が原作となっています。

■ストーリー

両親が離婚し、父親と暮らす小学生の日高暦（ひだかこよみ）は、ある日、父の勤務先である虚質科学研究所で佐藤栞（さとうしおり）という少女と出会います。お互いに恋心を抱くようになる暦と栞でしたが、親同士が再婚することを知らされます。ふたりは兄妹にならない運命が約束された並行世界への駆け落ちを決断しますが、その先に待ち受ける運命とは…？

■解説

『君を愛したひとりの僕へ』は、並行世界を行き来することができる〈ふたつの世界〉の〈ひとつの物語〉として描かれています。この秋、新しいラブストーリーが誕生した本作は、TikTokで話題となった小説が原作です。2016年6月に刊行された乙野四方字の小説「僕が愛したすべての君へ」と「君を愛したひとりの僕へ」（ハヤカワ文庫刊）は、それぞれの世界でひとりの少女と恋に落ちるラブストーリーです。2作品はそれぞれ独立していますが、2作を読むとふたつの世界が絡み合い交差し、お互いがお互いの世界を支え合っていることに気づく斬新な設定が隠されています。この内容がTikTokで紹介され話題となったことで累計発行部数31万部を突破しました。

斬新な設定と切ないラブストーリーが交差する2作品を、別々の制作スタジオが描いています。『僕が愛したすべての君へ』は、日清食品のプロモーション映像「HUNGRY DAYS アオハルかよ。」での新しいアニメーション表現が話題になったタツノコプロ内の新スタジオレーベルBAKKEN RECORDが制作。一方、『君を愛したひとりの僕へ』は、2013年に『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』で原作者の異なる2作品を見事にMIXした世界観を構築し、興収42.6億を記録する大ヒットを記録したトムス・エンタテインメントが制作しています。

■キャスト

日高暦：宮沢氷魚
佐藤栞：蒔田彩珠
佐藤絃子：水野美紀
瀧川和音（おばあさんになった和音）：余貴美子
日高暦（おじいさんになった暦）：西岡徳馬

■メインスタッフ

原作：乙野四方字（「君を愛したひとりの僕へ」（ハヤカワ文庫刊））
監督：カサヰケンイチ
メイン演出：工藤進、荻原健、備前克彦、松永真彦
脚本：坂口理子
音楽：大間々昂
キャラクター原案：shimano
企画、プロデュース：石黒研三
プロデューサー：橘佑香里、斎藤朋之
アソシエイトプロデューサー：須藤研人、宍戸潤岳
キャラクターデザイン：町田真一
スタイリスト：三田真一
作画監督：髙野ゆかり、小嶌エリナ、村田憲泰
美術監督：加藤靖忠
撮影監督：村上優作
色彩設計：斉藤明子
CGディレクター：菅友彦
編集：柳圭介
音響監督：平光琢也
アニメーションプロデューサー：山川剛史、高吉哲歩
アニメーション制作：トムス・エンタテインメント/第6スタジオ
アニメーション制作協力：作楽クリエイト
製作：「僕愛」「君愛」製作委員会
製作幹事：電通
配給：東映
特別協賛：AHKAH

■メインキャラクター

日高暦：両親の離婚後、父親と暮らしている。父が働く虚質科学研究所で、所長の娘の栞と出会う。
佐藤栞：日高暦の父が勤める虚質科学研究所の所長の娘。
佐藤絃子：栞の母で虚質科学研究所の所長。

■関連作品

僕が愛したすべての君へ

■主題歌・楽曲

TM1「紫苑」

作詞：石原慎也
作曲：Saucy Dog
編曲：Saucy Dog、永澤和真（agehasprings）
歌：Saucy Dog

IN1「雲を恋う」

作詞：須田景凪
作曲：須田景凪
編曲：須田景凪、PRIMAGIC
歌：須田景凪

IN2「サマーデイドリーム」

作詞：石原慎也、Saucy Dog
作曲：Saucy Dog
歌：Saucy Dog

■詳細な評論

『君を愛したひとりの僕へ』は、並行世界というSF的な要素を巧みに取り入れたラブストーリーです。物語の舞台となる虚質科学研究所は、現実世界と並行世界を行き来する技術を研究する施設であり、そこで出会った日高暦と佐藤栞の純粋な恋愛が描かれます。監督のカサヰケンイチは、SFとラブストーリーのバランスを絶妙に保ちながら、視覚的な美しさと感情の深さを追求しています。

特に印象的なのは、並行世界への駆け落ちを決意するシーンです。暦と栞が互いの気持ちを確認し、未来を共にするために新たな世界へ飛び込む瞬間は、観客の心を強く揺さぶります。また、物語の終盤で明らかになるふたつの世界の関係性は、読者や視聴者に深い感動を与えます。乙野四方字の原作小説が持つ独特の世界観を、トムス・エンタテインメントのスタッフが見事に映像化しています。

キャストの演技も見事で、特に宮沢氷魚が演じる日高暦の繊細な感情表現や、蒔田彩珠が演じる佐藤栞の純粋さが物語を引き立てています。音楽も重要な役割を果たしており、大間々昂の美しい旋律が物語の情感を豊かにしています。主題歌「紫苑」を歌うSaucy Dogの歌声も、作品の世界観にマッチしています。

■推薦ポイント

『君を愛したひとりの僕へ』は、SFとラブストーリーが融合した新しい感覚の作品です。並行世界という設定を活かしたストーリーテリングは、観客に新鮮な驚きと感動を提供します。また、美しいビジュアルと感動的な音楽も見逃せません。特に、恋愛に切ない要素を求める人や、SF的な設定を楽しみたい人には強くおすすめします。

さらに、この作品は『僕が愛したすべての君へ』とセットで楽しむことで、より深い理解と感動を得ることができます。2作品を比較しながら鑑賞することで、並行世界の魅力と乙野四方字の独特な世界観をより深く味わうことができるでしょう。