映画『ツルネ -はじまりの一射-』の感想と評価：弓道の美しさと青春の輝きを描く傑作アニメ

劇場版ツルネ -はじまりの一射- レビューと詳細情報

■概要

2022年8月19日に公開された劇場版「ツルネ -はじまりの一射-」は、綾野ことこによる小説「ツルネ -風舞高校弓道部-」を原作としたアニメ映画です。京都アニメーションが制作し、松竹が配給するこの作品は、102分の感動的な物語を描いています。監督は山村卓也、脚本も彼が担当し、キャラクターデザインは門脇未来が手掛けています。

■ストーリー

少年は憧れた。
心をつかんで離さない弦音〈ツルネ〉に。

青年は憎んだ。
誰よりも尊敬していたあの人を。

―あの日、音は聞こえなくなってしまった。
―あの人は、何も言わずに去ってしまった。

挫折と憎しみ。
痛みを抱えた少年と青年は、弦音に導かれ出会う。

何度苦しむことになっても。どんなに拒まれても。
彼らは弓を取り、矢をつがえる。

＜ツルネ＞
―――それは、矢が放たれた時に響く“はじまり”の音。

■解説

鳴宮湊は、弓引きの病とも言われる「早気」にかかり、弓道から身を引くことにした。高校に進学後、親友の竹早静弥が弓道部に入ると言っても、湊の気持ちは変わらない。だが、滝川雅貴と運命的な出会いを果たし、湊は傷つきながらも再び弓を手に取る。弓道部に戻って、いろいろなものが見えてきた気がするんだ。雅貴は湊を指導する一方で、自分の師匠に深い復讐心を抱いていた。俺は、あいつみたいな師匠にはならない。ともに歩み始めた雅貴と湊。これまで湊を支えてきた静弥は、自分はもう必要のない存在だと思い始める。僕は、滝川さん。あなたが嫌いです。弓への苦しみにもがき続ける、湊。師への愛憎にさいなまれる、雅貴。友への想いに追い詰められる、静弥。彼らが、たどりつく先は―――。

■キャスト

鳴宮湊／上村祐翔
滝川雅貴／浅沼晋太郎
竹早静弥／市川蒼
山之内遼平／鈴木崚汰
如月七緒／矢野奨吾
小野木海斗／石川界人
藤原愁／小野賢章

■メインスタッフ

原作／「ツルネ―風舞高校弓道部―」綾野ことこ(KAエスマ文庫／京都アニメーション)
監督／山村卓也
構成、脚本／山村卓也
脚本監修／横手美智子
キャラクターデザイン／門脇未来
総作画監督／丸木宣明
美術監督／落合翔子
3D美術／篠原睦雄
色彩設計／秦あずみ
小物設定／唐田洋
撮影監督／船本孝平
3D監督／山本倫
音響監督／鶴岡陽太
音楽／横山克
アニメーション制作／京都アニメーション
配給／松竹
製作／ツルネ製作委員会

■メインキャラクタ

鳴宮湊
「美しい弦音を響かせたい」という想いで弓道を始める。しかし、中学最後の試合中に、意に反して矢を放ってしまう早気を発症する。早気が原因でチームを敗北させたことに負い目を感じ、大好きだった弓道を辞めた。弓への思いを捨てきれずにいた高校1年の春、雅貴と出会う。雅貴の美しい射に胸を打たれ、もう一度、自分の弦音を取り戻そうと風舞高校弓道部へ入部する。
滝川雅貴
弓の師匠であった祖父に憧れ、弓道を続けてきた。湊と同じく早気になった過去を持つ。その際、祖父から厳しい言葉を浴びせられ、心に深い傷を負った。祖父亡き今も、憎しみに囚われている。弓に惑う湊の姿が過去の自分と重なり、積極的に関わりを持つようになる。夜多神社の神主を務めるかたわら、風舞高校弓道部のコーチとして湊たちを導く。
竹早静弥
湊とは幼馴染で、家族ぐるみの付き合いをしてきた。幼い頃に経験したある出来事が原因で、償いきれない罪を一人で背負ってしまう。以来、すべての物事を湊を中心に考えるようになった。湊と一緒に進学した桐先中学で弓道を始め、風舞高校では弓道部の部長を務める。
山之内遼平
風舞高校弓道部1年。高校進学後、本格的に弓道を始めた初心者。湊と静弥とは小学校時代の友人で、二人との再会を心から喜んだ。争いを好まず誰に対しても真心で接する。
如月七緒
風舞高校弓道部1年。人目を引くルックスと朗らかな人柄で、女子から人気を集める「王子様」。海斗とは従兄弟で、熱くなりやすい彼のフォローに回ることが多い。
小野木海斗
風舞高校弓道部1年。副部長。人一倍真面目に弓道と向き合うあまり、一度は弓道を辞めた湊に対して威圧的な態度を取る。本当は情に厚い。
藤原愁
名門桐先高校弓道部1年生。実力と風格を兼ね備えた、圧倒的な射を引く。小学生の頃、湊と同じ師匠のもとで弓道を学んだ。湊に優れた弓道のセンスを感じ取り、ともに弓道の高みを目指す唯一の同士と認めている。

■関連作品

ツルネ -風舞高校弓道部-
ツルネ -つながりの一射-

■主題歌・楽曲

TM1
Hand
作詞／PON
作曲／PON
編曲／ラックライフ
歌／ラックライフ

■レビュー

「ツルネ -はじまりの一射-」は、弓道というスポーツを通じて青春と成長を描いた作品であり、その美しいビジュアルと深いストーリーが観客を引き込む。特に、弓を引くシーンの描写は非常にリアルで、弓道の魅力を最大限に引き出している。監督の山村卓也は、原作の世界観を忠実に再現しつつ、新たな視点から物語を展開することで、既存のファンだけでなく新たな視聴者にもアピールすることに成功している。

主人公の鳴宮湊の成長物語は、多くの視聴者の共感を呼ぶだろう。湊が「早気」という弓引きの病に苦しみながらも、再び弓道に立ち向かう姿は感動的だ。また、滝川雅貴のキャラクターも深みがあり、彼の過去と現在の葛藤が物語に厚みを与えている。竹早静弥の友情や他の部員たちの個性も光っており、全体として非常にバランスの取れたキャスト構成となっている。

音楽もこの作品の魅力を高める重要な要素だ。主題歌「Hand」は、ラックライフの美しいメロディと歌詞が物語のテーマにぴったりであり、視聴者の心を揺さぶる。さらに、横山克による劇伴音楽は、弓道の緊張感や美しさを効果的に表現しており、映像と音楽の融合が素晴らしい。

京都アニメーションの制作技術も見逃せない。キャラクターデザインや背景美術、3Dの使用など、全てが一流であり、視覚的な美しさが際立っている。特に、弓を引くシーンの動きや音の表現は、まるで実際に弓道場にいるかのような臨場感を与える。

この作品は、青春スポーツアニメとしてだけでなく、人間ドラマとしても優れており、様々な世代の視聴者に楽しんでもらえるだろう。弓道に興味がなくても、友情や努力、挫折と再起の物語に共感できるはずだ。ぜひ劇場でその美しい映像と感動的なストーリーを体験してほしい。